93歳の杜氏・農口尚彦さん、技が石川県の文化財に
「酒造りの神様」と呼ばれる能登杜氏・農口尚彦さん(93)が、石川県の無形文化財「日本酒杜氏の技」の技術保持者に認定されることが決まった。
日本海に突き出た能登半島をもつ石川県が、酒造りの責任者である「杜氏」の技を県の無形文化財に指定することを決めた。その技術保持者として認定されることになったのが、93歳の農口尚彦さんだ。地元の報道によると、杜氏の技が文化財に指定されるのは全国でも初めてとみられる。日本の伝統的な酒造りは2024年にユネスコの無形文化遺産に登録された。今回の認定は、その技を実際に担う一人の職人を、行政が公式に守る対象として名指しした点で注目される。
70年以上、蔵に立ち続けた「酒造りの神様」
農口さんは石川県能登町の出身で、能登地方の杜氏集団「能登杜氏」の一人として70年以上酒造りに携わってきた。日本の新酒の出来を競う全国新酒鑑評会では、これまでに金賞を27回受けている。2008年には黄綬褒章を受章した。功績として挙げられたのは二つある。米を大きく磨いて香り高く仕上げる「吟醸酒」を広めたこと、そして戦後に途絶えかけていた「山廃仕込み」を復活させ、広めたことだ。山廃仕込みは、蔵に住む天然の乳酸菌の力を借りて酒母(発酵のもと)をじっくり育てる伝統的な製法で、酸味と旨味のしっかりした酒になりやすい。認定の知らせを受けた農口さんは、続けてきてよかった、認められて本当に嬉しいと喜びを語った。
秒単位の記録と、手づくりの麹

杜氏は蔵の最高責任者で、細かな作業は通常「蔵人」と呼ばれる職人たちが担う。しかし農口さんは、米を洗う段階から仕込みまで、ほぼすべての工程に自ら加わる。とくに、米に麹菌を育てる「麹づくり」は手作業にこだわってきた。米の水分や室内の湿度を秒単位で記録するほどの徹底した仕事ぶりが、今回の認定につながったという。農口さんは、日本酒は日本の気候と風土、原料の米、そして職人の技がそろって初めて生まれるもので、他の国では造れないと話す。この文化を将来に伝えたいという思いから、今後も蔵に立ち、次の世代に技を継いでいくつもりだ。
ヨーロッパで「山廃」を味わう

ヨーロッパで農口さんの仕事に触れる一番の近道は、ラベルの「山廃(Yamahai)」の表記を探すことだ。農口さんが広めたこの製法の酒は、今では多くの蔵が造っており、輸入品の中でも見つけやすい。乳酸由来の酸と厚みのある旨味が特徴で、常温かぬる燗(40度前後)にすると味わいが開く。熟成したハードチーズ、きのこ料理、燻製肉など、ワインならしっかりした白を合わせたくなる料理とよく合う。一方、吟醸酒は冷やして、香りを楽しめるワイングラスで飲むのがおすすめだ。同じ「日本酒」でも製法によってこれほど表情が変わること自体が、杜氏の技の奥深さを物語っている。
参考・出典
本記事は上記の公開情報をもとに The Sake Wire 編集部が要約・執筆したものです。画像は自社素材を使用しています。
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