The Sake Wire

白杉酒造、乳酸を使わない「モダン生酛」に挑む

京都・京丹後の白杉酒造が、黒麹のクエン酸で乳酸を置き換える独自製法の新シリーズ「shirakiku AVANT-GARDE」2銘柄を発売した。

京都府北部、日本海に面した京丹後市の白杉酒造(Shirasugi Shuzo)は1777年創業、250年近い歴史を持つ酒蔵です。この蔵が2026年8月、ブランド「shirakiku(シラキク)」の新たなフラグシップとして「shirakiku AVANT-GARDE(アヴァンギャルド)」シリーズの2銘柄を発売しました。最大の特徴は、日本酒造りにほぼ欠かせないとされてきた乳酸を一切使わない新しい製法です。

食用米だけで酒を造る小さな蔵

食用米の稲穂が広がる田んぼ
食用米の稲穂が広がる田んぼ — 写真: Dennis Peterson(Unsplash)

11代目の当主で杜氏(醸造責任者)も務める白杉悟(Satoru Shirasugi)氏は、蔵を継いだ直後に経営危機に直面しました。打開策として選んだのが、自ら惚れ込んだ地元・丹後産のコシヒカリでの酒造りです。コシヒカリは日本で最も広く食べられている食用米で、酒造りに向くよう育種された「酒米」とは異なり、一般には日本酒に不向きとされます。それでも蔵は2015年から全銘柄を丹後産の食用米で仕込み、現在わずか4人の体制で試行錯誤を重ね、近年は各種コンテストでの評価も増えてきたといいます。ラベルのデザインも杜氏自身が手がけています。

黒麹のクエン酸で乳酸を置き換える

日本酒造りでは、まず「酒母(しゅぼ)」と呼ばれる酵母の培養液をつくります。ここで酸性を保って雑菌を抑えるのが乳酸の役割です。現在主流の「速醸」は乳酸を加え、伝統的な「生酛(きもと)」や「山廃」は自然に生まれる乳酸を利用します。白杉酒造はそのどちらでもなく、焼酎や泡盛で使われる黒麹が生み出すクエン酸で酸性を保ち、さらに独自の方法で酒母を無菌状態にすることで、乳酸なしの酒母を実現しました。酸の構成が変わることで、これまでにないまろやかな味わいになるといいます。蔵はこれを、各蔵が生酛を独自に再解釈する近年の「モダン生酛」の流れに連なるものと位置づけ、「シラキク式モダン生酛」と名付けました。白杉氏は、伝統から離れようともがいた末に、結果として伝統の生酛に通じる場所へたどり着いたと語っています。

赤いリンゴと洋梨、ヨーロッパでの楽しみ方

リンゴと洋梨を添えたワイングラス
リンゴと洋梨を添えたワイングラス — 写真: Milan(Pexels)

第1弾「CRIMSON RED」は赤いリンゴを思わせる香り、第2弾「CHARTREUSE GREEN」は洋梨を思わせる香りから名付けられ、どちらもまろやかな口当たりが特徴とされます。国内価格は720mlで2,420円(税込)です。発売時に販売先として挙げられていたのは日本国内の特約店と、当時は準備中だった公式ECサイトで、欧州での展開には触れられていません。ただ、「モダン生酛」は日本酒の動向を読み解くうえで注目したいキーワードのひとつです。ヨーロッパで生酛や山廃の酒を見かけたら、酸の質感に注目して味わってみてください。果実の香りを楽しむなら、白ワイン用のグラスでやや冷やし気味にする方法もあります。白杉酒造の動きは、蔵の公式Instagramで追うことができます。

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