倒壊した蔵から救った酵母で醸す、能登と金沢の共同酒
能登半島地震で全壊した鶴野酒造店と金沢の福光屋が、倒壊した蔵から救い出した酵母を約2年かけて選び抜き、3期目の共同醸造で初めて使った。

石川県の能登半島は日本海に突き出た半島です。その東海岸にある能登町で、18世紀末から酒を造ってきたのが鶴野酒造店です。2024年の能登半島地震で蔵は全壊しました。以来、同じ石川県の金沢にある1625年創業の福光屋と共同醸造を続けており、3期目を迎えました。今回は初めて、倒壊した蔵から救い出した酵母を使いました。
倒壊した蔵から酵母を救う

酵母は糖をアルコールと香りに変える微生物です。蔵ごとに受け継がれてきた株が、酒の個性を大きく左右します。目標は、鶴野酒造店の代表銘柄「谷泉(たにいずみ)」本来の風味を取り戻すことでした。石川県工業試験場の山崎裕也研究員と石川県立大学の小栁喬教授の協力を得て、蔵から回収した約10種の酵母を約2年かけて調べました。そのなかから選ばれたのが、発酵力の強い「T酵母」です。この株は、発酵の起点となる酵母の培養液「酒母」から救出されました。仕込みは鶴野酒造店の杜氏(醸造責任者)である鶴野薫子氏が主導し、福光屋の板谷和彦杜氏と蔵人たちが支えました。
性格の異なる2本の純米吟醸

2本とも米と米麹だけで造る純米吟醸です。玄米の外側を40%削り、60%を残しています(精米歩合60%)。「鶴と福 2026」はT酵母だけで造られました。香りが高く、甘みを伴う旨味とふくらみがあります。辛口の目安となる日本酒度は+3.2、酸度は2.1で、酸がしっかりしています。卵料理や、油で炒めた野菜料理、チーズと合わせることが勧められています。
もう1本の「谷泉 × 加賀鳶 2026」は、谷泉と福光屋の「加賀鳶」を1対1でブレンドしたものです。加賀鳶には、東京農業大学短期大学部で分離された「花酵母」が使われています。日本酒度は+4.7、酸度は1.5で、軽やかでなめらかな飲み口です。生牡蠣や白身魚の天ぷら、カプレーゼとの相性が良いとされます。生産本数は、鶴と福が1,000本、谷泉 × 加賀鳶が865本に限られます。
酵母という「蔵の記憶」をつなぐ
蔵が被災すると、建物や設備だけでなく、長い年月をかけて育ってきた酵母まで失われかねません。今回は、県の研究機関と大学、そして別の蔵が手を組みました。救い出した酵母を、ふたたび市販の酒として世に出したのです。鶴野酒造店は兄妹で「谷泉」と「登雷」を醸しています。今回の取り組みは、能登の味を未来へ受け渡すための具体的な一歩といえます。
この2本は数量が少ないため、ヨーロッパで手に入れるのは難しいでしょう。それでも、この話から「どの酵母で造られた酒か」に目を向ける視点が得られます。ラベルや輸入業者の資料で酵母の名前を確かめる習慣をつけると、同じ精米歩合の純米吟醸でも香りや酸の違いを読み解きやすくなります。能登や金沢の酒を見かけたら、チーズや卵料理、牡蠣など身近な料理と合わせてみてください。
参考・出典
本記事は上記の公開情報をもとに The Sake Wire 編集部が要約・執筆したものです。画像は自社素材を使用しています。
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