信長の焼き討ちを越えた木から、幻の寺の酒に新酵母
1573年に製法が途絶えた寺の酒「百済寺樽」の復活プロジェクトが始動から10年を迎え、焼き討ちを生き延びた境内の菩提樹の花から酵母を探す研究が進んでいる。

滋賀県東近江市にある古い寺、百済寺(ひゃくさいじ)では、中世に「百済寺樽(ひゃくさいじだる)」という酒が造られていました。一度は途絶えたこの酒を、地域の人たちが復活させるプロジェクトを始めて10年になります。いま、その次の取り組みとして、寺のシンボルである一本の木から酒造りに使う酵母を取り出す研究が進んでいます。京都新聞が2026年4月に伝えました。
444年の空白を埋めた復活プロジェクト
中世の日本では、大きな寺院が自分たちで酒を造ることがありました。百済寺樽もそうした寺の酒の一つです。しかし1573年、戦国武将の織田信長が寺を焼き討ちし、その製法は失われました。
復活を企画したのは藤田彩夏さん(38歳)です。藤田さんは2016年、地域の活性化を担う市の「地域おこし協力隊」の一員として、市内の愛東地区に赴任しました。「復活すれば話題になり、地域の元気につながる」と考え、寺に提案しました。地元で酒米を育てる農家や、同じ市内の酒蔵・喜多酒造と手を組み、2017年に444年ぶりの復活を果たしました。それ以来、毎年新しい酒を出しています。
焼き討ちを生き延びた菩提樹から17株

10年の節目に、藤田さんは「もう少し寺に恩返しをしたい」と考えました。喜多酒造の社長、喜多麻優子さんと話すうちに思い浮かんだのが、境内に立つ菩提樹です。日本の寺で菩提樹と呼ばれる木は、一般にシナノキの仲間で、初夏に小さな花を咲かせます。百済寺の菩提樹は、信長の焼き討ちを生き延びたと伝わる木です。
研究を担うのは、滋賀県栗東市にある県の研究機関、滋賀県工業技術総合センターです。この木の花から17株の菌を取り出して培養し、酵母としての性質を調べながら、試しの仕込みを重ねています。日本には、花から取った酵母で造る酒が以前からあり、香りや味わいに個性が出ることがあります。どの株が酒造りに向くかは、まだわかっていません。藤田さんは「まだ研究の途中だが、100年先を見すえ、時代の最先端を走る酒を目指したい」と話しています。早ければ、地元の酒米とこの「百済寺酵母」で新しい酒を仕込めるかもしれない、とのことです。
ヨーロッパの読者へ:歴史と微生物の両方を味わう
百済寺樽はいまのところ地元向けの小さな取り組みで、ヨーロッパで手に入る酒ではありません。ただ、この話から広がる楽しみ方はあります。一つは、日本酒の「酵母」に目を向けることです。ラベルや輸入業者の説明に、酵母の種類や花酵母と書かれていれば、同じ米・同じ蔵でも香りがどう変わるかを飲み比べてみてください。もう一つは、滋賀県の酒を探すことです。日本最大の湖、琵琶湖を囲むこの県には古い寺と酒蔵が多く、歴史と結びついた酒があります。焼き討ちを越えた木の酵母が酒になるのか、試験の結果が楽しみです。
参考・出典
本記事は上記の公開情報をもとに The Sake Wire 編集部が要約・執筆したものです。画像は自社素材を使用しています。
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