The Sake Wire

標高850mの畑でテンプラニーリョ、草原が戻ったメルシャンの挑戦

キリングループのワイン大手メルシャンが、山梨の高地の畑でスペイン品種を草と一緒に育て、失われかけた草原の生態系を取り戻しつつある。

ワイン(イメージ)
ワイン(イメージ) — 写真: Miriam Fischer(Pexels)

日本のワイン大手メルシャン(Mercian、キリングループ傘下)は、生物多様性を回復させる「ネイチャー・ポジティブ」の取り組みを自社のブドウ畑で進めている。その最前線が、山梨県甲州市の天狗沢ヴィンヤード(Tengusawa Vineyard)だ。山梨県は東京の西にある山がちな県で、日本のワイン造りの中心地として知られる。この畑は同社が管理する畑の中で最も高い、標高800〜850mにある。気候変動への対応と、自然との共生を両立させる試みとして注目されている。

放置林からスペイン品種の畑へ

山の斜面に開かれた垣根仕立てのブドウ畑
山の斜面に開かれた垣根仕立てのブドウ畑 — 写真: Francesco Ungaro(Pexels)

天狗沢ヴィンヤードは、もともと手入れされずに残っていた雑木林だった。2017年に開墾され、ブドウの樹を支柱と針金に沿って列状に仕立てる「垣根栽培」の畑になった。2018年からは、スペインで広く栽培されている赤ワイン用のテンプラニーリョと白ワイン用のアルバリーニョを育てている。どちらも温暖なスペインの産地で育まれてきた品種で、暑い環境でも熟しやすく、比較的早い時期に収穫できる。日本の夏が暑くなるなかで、あえて高地の畑に暑さに強い欧州品種を植えたことになる。この2品種を使ったワインは、2026年4月からメルシャンの直営オンラインショップで数量限定で販売されている。

草と一緒に育てることで草原が戻る

ブドウ畑の草地に集まるチョウ
ブドウ畑の草地に集まるチョウ — 写真: Susanne Jutzeler, suju-foto(Pexels)

畑では、自然に生える野草を刈り残しながらブドウを育てる「草生栽培」を採用している。草の根が土の流出を抑え、ブドウと水分や養分を分け合うことで、水や肥料が多すぎる状態を防ぐ。雨の後も土がぬかるみにくく、作業もしやすい。周辺には野生のシカが多く、食害を防ぐための柵が畑を囲んでいる。この柵のおかげで、シカに食べられて弱っていた植物が回復し、珍しい昆虫も見られるようになった。

約3.7haの畑ではこれまでに、ススキやチガヤなど111種の植物と、ヒョウモンチョウの仲間を含む35種のチョウが確認された。良い草原の目印とされる植物も育っている。メルシャンは2014年から国の研究機関である農研機構(NARO)と共同研究を行い、垣根栽培と草生栽培の畑が草原を回復させ、生物多様性にプラスになることを確かめてきた。日本では、絶滅のおそれがある生き物が多く暮らす草原は国土の1%以下にまで減っている。

2026年3月、天狗沢ヴィンヤードは環境省の「自然共生サイト」に認定された。これは民間の土地などで生物多様性の保全に役立っている場所を国が認める制度で、同社のブランド「シャトー・メルシャン」では長野県の鞠子、山梨県の城の平に続いて3か所目となる。メルシャンは今後数年のうちに、社会や環境への配慮を評価する国際認証「B Corp」の取得も目指している。シャトー・メルシャン事業本部長の小林弘憲氏は、地球によい製品を選びたいという消費者の意識が高まっていると語る。

ヨーロッパの読者へ

赤と白のワインを並べて味わう
赤と白のワインを並べて味わう — 写真: Polina ⠀(Pexels)

今回の2本は日本国内の直営オンライン限定のため、ヨーロッパで手に入れるのは難しい。それでも、日本ワインを扱う専門店や輸入業者で「シャトー・メルシャン」の名前を見かけたら、手に取ってみるのもいい。スペインのテンプラニーリョやアルバリーニョに親しんでいる人なら、同じ品種が日本の山の涼しさと草原の中でどう表現されるかを想像しながら比べるのも楽しい。ワインを選ぶときに、味だけでなく「畑がどんな自然を守っているか」に目を向ける。この記事は、そんな新しい選び方のきっかけになるかもしれない。

参考・出典

本記事は上記の公開情報をもとに The Sake Wire 編集部が要約・執筆したものです。画像は自社素材を使用しています。

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