小説の中の江戸ビールを再現、米と麹のワイルドエール
和歌山のORYZAE BREWINGが、幕末を舞台にした小説に登場するビールを、麦を使わず米と麹、蔵付き酵母で醸造し、300本限定で発売した。

大阪の南、紀伊半島の西側にある和歌山県のクラフトビール醸造所ORYZAE BREWINGが、2026年10月1日に「タイムスリップビール」を発売した。小説の中で生まれた架空のビールを、実際に醸造したものだ。大麦麦芽は一切使わず、日本酒と同じ米と麹を主な原料にしたワイルドエールで、ビールと日本酒の境目にある珍しい一本になっている。
物語の中の一杯を、現実の瓶に

もとになったのは、クラフトビールライターで作家のルッぱらかなえ(本名・小林加苗)の小説『タイムスリップビール ~黒船来航、ビールで対抗~』。1853年、アメリカの艦隊(いわゆる「黒船」)が来航して揺れる江戸時代末期の日本に、現代のブルワーが飛ばされる物語だ。麦芽もホップも酵母も手に入らない時代に、酒造りをあきらめた地元の男と組み、現代のビールの知識と日本酒の醸造技術を合わせて、まだこの国にないビールを造ろうとする。執筆のきっかけは、「もし今も鎖国が続いていたら」という発想でビールを造るORYZAE BREWINGへの取材だった。構想5年、執筆3年。ビールと日本酒の両方の醸造経験を持つ同醸造所が監修し、実際の醸造知識が物語に盛り込まれている。
麦を使わず、米と麹と蔵の酵母で

「江戸でビールを造ったら」という前提なので、原料に麦はない。使うのは米、米麹、ホップ、そして瓶内二次発酵のための糖類。発酵には、醸造所にもともと住みついている酵母(蔵付き酵母)を使う。麹は日本酒や味噌づくりに欠かせないカビの一種で、米のでんぷんを糖に変える。ふつうのビールで麦芽が担う役割を、ここでは麹が代わりに果たしているわけだ。醸造所によれば、仕上がりはシャンパンや白ワインを思わせる味わい。アルコール度数7.5%、330ml瓶で、グルテンフリーとしている。
読み終えてから飲む「エンドロール」

ラベルにはQRコードがあり、小説を全編読むことができる。主人公たちの旅を最後まで見届けてから、彼らが造った一杯を実際に味わう。造り手はこれを「飲むエンドロール」と呼ぶ。また、瓶の中で味が変わり続けるため、寝かせて変化を楽しめるという。急いで読み終える必要はなく、ページが進むにつれてビールも熟していく、という仕掛けだ。販売は300本だけで、同じものは二度と造らない一回限りの醸造となる。
この300本がヨーロッパに届く可能性は低い。発表は国内のオンライン販売のみを案内しており、海外販売には触れていないからだ。それでも、麦芽の代わりに麹で糖をつくる、という発想そのものは覚えておく価値がある。専門店やビアバーで「koji」や「rice」と表示されたエール、日本酒の技術を取り入れたビールを見かけたら、試してみるのも一案だ。グルテンフリー表示も手がかりになる。飲むときはビールグラスよりも白ワインやシャンパンのグラスで、少し冷やして香りを確かめたい。瓶内二次発酵のものなら、何本か寝かせて、時間による変化を飲み比べるのも楽しい。
参考・出典
本記事は上記の公開情報をもとに The Sake Wire 編集部が要約・執筆したものです。画像は自社素材を使用しています。
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