酒造りの無形遺産、担い手808人の現在
ユネスコ無形文化遺産「伝統的酒造り」の保存会が年次報告を公表し、担い手808人の現状と、英語での発信に取り組む姿が見えてきた。

808人の「保持者」が支える遺産
2024年12月、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。登録されたのは特定の銘柄ではありません。日本酒、本格焼酎、泡盛、本みりんを、こうじ菌を使って造る技術そのものです。こうじ菌は、米などに生やして発酵を助けるカビの一種です。この技術を次の世代へ受け継ぐための団体「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」が、2025年度(2025年4月〜2026年3月)の活動報告を公表しました。
報告によると、技術の担い手として登録された「保持者」は808名です。会員数は、保持者と協力者72名を合わせて880名でした。前の年度は保持者817名、会員889名でした。この1年で16名が入会し、25名が退会したため、会員はわずかに減っています。遺産登録という明るい話題の陰で、担い手の数をどう保つかという課題が静かに続いています。
「生酛」の技を英語で伝える
保存会は海外への発信にも取り組みました。「生酛(きもと)」は、発酵の出発点となる酒母を、昔ながらの手間のかかる方法で育てる技法です。この生酛を記録したビデオに英語字幕を付けて公開し、解説リーフレット「こうじと酒造り」の英語版も作って配布しました。杜氏(酒造りの責任者)のうちベテランの人たちへの聞き取り調査をまとめた冊子も配布しています。日本国内では、大阪・関西万博の会場や大規模な試飲会で、セミナーや展示に協力しました。一方で、保存会のウェブページの年間閲覧数は、前年の約1万7千回から約1万3千回に減っています。登録直後に集まった関心をどうつなぎとめるかも問われています。
「人間国宝」への道も開かれる
報告の中で特に注目されるのは、2025年12月に文化庁から受けた説明です。伝統的酒造りは、日本の国内制度では現在「登録無形文化財」です。これが歴史上特に重要なものと判断されれば、より格の高い「重要無形文化財」に指定される可能性があります。その場合、保持者が「人間国宝」に認定される道も開かれるといいます。酒造りの職人が人間国宝になれば、造り手に向けられる評価は国内でも海外でも大きく変わるかもしれません。
ヨーロッパでこの話を楽しむなら、ラベルにある「Kimoto(生酛)」の表記に注目してみてください。生酛造りの酒は、一般に酸味とうまみがしっかりしていて、常温やぬる燗でも味が崩れにくいとされます。飲む前に保存会の英語字幕付きビデオを見ておくと、グラスの中の手仕事がより身近に感じられるはずです。なお、ユネスコに登録されたのは技術そのものです。「UNESCO」をうたう商品が、特別な等級の酒という意味ではない点も覚えておきましょう。
参考・出典
本記事は上記の公開情報をもとに The Sake Wire 編集部が要約・執筆したものです。画像は自社素材を使用しています。
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