火災から再起、水谷酒造が新蔵の建設に着手
2024年の火災で蔵を失った愛知県の水谷酒造が、外部に保管していた酵母とほかの蔵の支援で酒造りを続け、新しい蔵の地鎮祭を迎えた。

焼失した蔵と、守られた酵母

愛知県は東京と大阪のほぼ中間にある県で、水谷酒造がある愛西市は名古屋の西側に位置します。創業は江戸時代末期とされ、代表的な銘柄の一つ「千瓢(せんぴょう)」は高い評価を受けてきました。5代目の水谷政夫氏は1998年から、蔵の経営者自身が杜氏(醸造責任者)を兼ね、一人で酒を造ってきました。
2024年5月9日の午後に火災が起き、木造平屋建ての蔵は一部を残してほぼ全焼しました。けが人はいませんでしたが、現社長の立松豊大氏は一時、蔵を閉じることも考えたといいます。それでも再起できた大きな理由は、酒造りに使う酵母を蔵の外に保管していたため、焼失を免れたことでした。酵母は香りや味わいの個性を左右する微生物です。建物は建て直せても、酵母を失えば蔵の味をつなぐのは難しくなります。
ほかの蔵で造り続けた2年
火災から約半年後、水谷酒造は愛知県内の別の酒蔵の協力を得て、酒造りを再開しました。業界メディアSAKE Streetによると、「義侠」「我山」「奥」など県内の酒蔵に支えられて共同で醸造を行い、2025年春には西尾市の山崎合資会社で、同社の銘柄「千実(ちさね)」が搾られていました。
地元の住民や県内の同業者からの励ましに加え、名城大学の学生サークル「日本酒研究会」の出身で杜氏を目指す後藤実和さん(28)の存在も大きな支えになりました。再建資金を募ったクラウドファンディングには、目標額を上回る約2400万円が集まりました。
効率よく造れる2階建ての新蔵

2026年9月4日、新しい蔵の地鎮祭(建設の前に土地を清める神道の儀式)が行われました。新しい蔵は2階建てで、2027年4月に完成する予定です。もろみ(米、麹、水、酵母が発酵している状態のもの)を仕込むタンクには温度管理ができる型を採用し、1階に並べます。蒸した米は2階から投入するため、これまでのようにタンクに上って米を入れる重労働は減る見込みです。作業の流れに沿って工程が進むよう、蔵の中の動線も工夫されています。立松社長は、この日はゴールではなく、おいしい酒を5年、10年と届け続けるための出発点だと語りました。後藤さんは今後、営業に力を入れて販路を広げていく考えです。
ヨーロッパでこの蔵の酒を見かける機会はまだ多くないかもしれません。注目したいのは「千瓢」「千実」という銘柄名です。2024年から2026年に造られた酒は、ほかの蔵の設備を借りて造られた移行期の記録ともいえます。新しい蔵が動き出した後の酒と飲み比べれば、同じ酵母と造り手でも、設備が変わることで味わいがどう変わるかを確かめられるかもしれません。取り扱いのある専門店では、いつ、どこで造られた酒なのかを尋ねてみてください。一本の背景にある物語が、味わいへの理解を深めてくれるでしょう。
参考・出典
本記事は上記の公開情報をもとに The Sake Wire 編集部が要約・執筆したものです。画像は自社素材を使用しています。
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