杜氏制度から社員の酒造りへ 群馬・浅間酒造の選択
群馬県の浅間酒造は季節雇用の杜氏に頼る体制をやめ、職人の勘をデータ化して社員全員で醸す体制へ移ったと、社長が地元紙への寄稿で明かした。
日本酒の世界で長く当たり前だった「杜氏(とうじ)」の制度が変わりつつあります。杜氏とは、酒蔵で造りの全責任を負う醸造責任者のことです。東京の北西、山あいの群馬県長野原町にある浅間酒造の5代目社長・桜井武氏は、2026年7月に地元紙の上毛新聞へ寄稿しました。その中で、杜氏制度をやめて自社の社員だけで酒を造る体制に完全に切り替えたこと、そしてその変化は品質を妥協した結果ではなく進化だと述べています。
季節の職人から、通年の社員へ
日本酒造りでは昔から、経営を担う蔵元と、造りを任される杜氏が役割を分けてきました。杜氏と職人たちの多くは、夏は農業をして冬だけ蔵で働く季節雇用でした。しかし、農業に携わる人が減り、暮らし方も変わったため、このやり方を続けるのは難しくなっています。桜井氏は、長く受け継がれてきた知識の伝え方が大きな曲がり角にあると書いています。そこで浅間酒造は、造りを社員の手に移す決断をしました。
勘を数字にし、全員で全工程を担う

一番の課題は、ベテランの経験と勘を若い社員にどう引き継ぐかでした。浅間酒造は、言葉にしにくかった造りの工程をデータとして記録し、目に見える形にしました。職人の感覚を大切にしながら数字も使うことで、経験の浅い社員でも同じ品質を再現しやすくなったといいます。さらに、作業を細かく分担するのをやめ、全員がすべての工程に関わる体制に変えました。特定の人だけが知る作業がなくなったので、忙しい造りの季節にも休みを取れるようになったそうです。
社員が設計する吟醸酒
体制を支えるもう一つの柱は、2005年に始めた社内制度です。コンテストに出品する吟醸酒(米を大きく削って低温でゆっくり発酵させる、香り高い高級酒)を、社員一人ひとりが自分で設計し、仕込みまで担当します。この仕組みは、桜井氏が修業した山形県の出羽桜酒造から取り入れたものです。1つのコンテストに出せるのは1種類だけなので、社内の予選を勝ち抜いた酒だけが出品されます。制度を始めてから、全国新酒鑑評会で毎年入賞以上の評価を受けています。それでも桜井氏は、受賞は通過点にすぎず、本当の目的は磨いた技術を毎日の食卓で飲む「いつもの一本」に生かすことだと強調しています。
ヨーロッパで日本酒を選ぶときは、ラベルの銘柄だけでなく「誰が、どんな体制で造っているか」にも目を向けると面白くなります。杜氏から社員への移行は、今の日本の酒蔵に広がっている変化の一つです。取扱店やインポーターに、その蔵が杜氏制度なのか社員による造りなのかを聞いてみるのもよいでしょう。浅間酒造のように、鑑評会向けの吟醸酒と普段飲みの酒を同じチームが造る蔵なら、華やかな吟醸酒と食事に合わせやすい普通酒を飲み比べると、技術がどう日常の一本に生きているかを感じられるかもしれません。
参考・出典 上毛新聞「妥協でなく進化の証し 杜氏制度からの移行」 https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/981406
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